地域情報産業(GIS産業論)の育成を目指して20年―これからの課題は、防災GISの技術力育成―

地域情報産業(GIS産業論)の育成を目指して20年

   ―これからの課題は、防災GISの技術力育成―

NPO法人全国G空間情報技術研究会理事長 碓井照子         

 全国GIS技術研究会(2017年に全国G空間情報技術研究会へ改称)設立の背景は、私がGIS学会会長で提唱した「地方におけるGIS産業の発展」と関係が深い。このことは、現在の宮島四郎専務理事がGISNEXT88号(2024年7月25日発刊)で記載している。当初提案されたサテライト計画では、「産官学が一体となって地域情報化を推進する大手企業、地方の中小企業、行政・学術研究機関による地方の測量系GIS人材育成」が中核にあった。私が測量系の専門雑誌月刊「測量」に連載したGIS産業論(2013年~2015年8回連載)で示したGIS産業モデル(図1)も米国のGIS産業モデルの日本版であるが、サテライト計画と類似している。

 図1が作成された2000年代初頭、その頂点には、ESRIジャパンやインフォマティクスなどのGISソフト会社、日本型GIS企業であるマプコン、測量系CAD-GIS企業としてのウチダデータ、パスコや国際航業、アジア航測などの測量大手企業、日立、NTT-DATA、NEC、富士通などの情報系企業、トプコン、ニコン・トリンプルなどの測量機器企業があり、その下に、GIS・測量ソフト等を地方の測量系企業へ販売するドラッガー(引き込み企業)と呼ばれる機器・ソフト販売企業があった。

 我々のNPOは、図1の最上位の建設CAD/GISソフト開発企業であったウチダデータの元社長の宮島四郎氏を専務理事として、長野県の中核的な測量設計企業であるみすず綜合コンサルタント前社長の増沢延男氏と、宮城県仙台市の佐野コンサルタンツ株式会社前社長の佐野伸義氏の二人を副理事長として、全国を6ブロックの地域に分け、地元の測量設計業を中心に活動を展開してきた。会員の多くは、昭和40年代以降創業の地域の中核的な中小企業が多く、図1で上から3番目のGISフロントエンドコアビジネス層であり、GISが専業というより、測量設計業の副業としてGISを始めた企業が多い。

特に測量業が中心のNPOであるがゆえに国土地理院からはセミナーの講師派遣など技術面で指導を受けてきた。また、GIS学会の賛助団体として地域の大学のGIS研究者とも交流を深めてきた。

 2024年8月29日、設立20周年を迎え、全国大会を記念大会として実施する予定でいたが、あいにくの台風接近で延期せざるを得なくなった。基調講演として国立研究開発法人防災科学技術研究所総合防災情報センター長の臼田裕一郎氏から「災害対応に於ける防災DX技術の活用」、防災事例紹介Ⅰとして(株)みすず綜合コンサルタント副社長の高藤亨仁氏から「長野県内に於けるドローンを使った災害対応の実例」、事例紹介Ⅱとして佐野コンサルタンツ(株)常務取締役の阿部輝男氏から「仙台市との下水道災害協定と技術委員会活動報告」、私自身は「災害発生時に対応したNPOの活動成果」を講演する予定であった。

 この全国大会は、これからのNPOの重点的活動が「災害対応におけるGIS活用」にあることを示している。10月26日の関東主催のWebセミナー「防災マップの作り方・活かし方セミナー 」では、「Web地図を活かして災害リスクを理解する」(明治大学文学部 兼任講師 宇根寛氏)、「みんなに伝わる防災マップ」(独立行政法人国際協力機構 国際協力専門員 藤村英範氏)の講演があった。

 8月15日、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表され、異常気象による山崩れや水害も多発している。これからの地域の最大課題は災害である。我々のNPOもGISの技術力を生かして防災面で地域貢献をしなければならない。今後、防災GIS関連の技術研修を充実させていくことになる。

 

     

 

 

「GIS NEXT    第89号  掲載記事より」