理事長就任にあたって

奈良大学名誉教授・日本学術会議会員 /NPO 法人 全国 GIS 技術研究会理事長
碓井 照子

東日本大震災後の日本を「災害後」略して「災後」とよばれる。第2次世界大戦後を戦後と称し、日本社会の質的変化を意味してきた。この巨大災害では、想定外の地震が起こったことから防災から減災の思想へ大きく変換し、原子力に対する安全神話は、完全に崩壊した。日本社会の質的変換期がそこまで来ている。災後、安心・安全な社会への願望は強い。同時に、エネルギー政策は大きく変換し、グリーンエネルギー、自然エネルギーへと舵を取ろうとしている。スマートシティ構想は、エネルギーの地産地消を含む循環型地域社会の創成を目標とし、時代は大きく変化しようとしている。この変革期に社会インフラとしてその価値が高まっているのが、地理空間情報社会のインフラである電子国土つまり、正確で日々更新されている電子地図・基盤地図情報である。

昨年のGoogleとAppleの劇的対立は、すべての情報のプラットフォームである電子地図に象徴されたといえる。つまり、Apple社は、iOS6.0からは、Googleマップではなく、Appleのオリジナル電子地図を搭載するようになったが、初期の電子マップには誤りが多く、オーストラリア・ビクトリア州の警察当局が、iOS 6の地図アプリをカーナビで使用すべきではないと警告した。なぜなら地図上の街の位置が誤っており、ドライバーが事故を起こし易いケースが相次いだからである。「命に関わる」という電子地図の誤りと電子地図の不正確さは、社会的問題に発展し、昨年、AppleのCEOが謝罪し、iOS担当上級副社長、スコット・フォーストール氏の退任を含む組織改編を発表した。

電子地図は、いまや日常生活に不可欠な社会情報インフラである。そこでは、正確さと迅速な更新、国民への無償の配信が求められる。特に、次世代のスマートシティ構想においては、500レベルの道路情報や少なくとも1000レベル以上の建物情報は、不可欠といえる。この社会情報インフラの法律が地理空間情報活用推進基本法であり、インフラとしての電子地図の骨格情報が基盤地図情報である。今、日本社会に求められているのは、基盤地図情報の更新による道路や建物情報の大縮尺レベルの実現であるといえる。

そのためには、地方自治体と国土地理院の連携による基盤地図情報の更新が如何にスムーズにいくかということが重要になる。つまり、基盤地図情報の社会情報インフラとしての重要性を理解し、費用のかからない基盤地図情報の更新モデルを自治体業務の中で自然に取り入れられる基盤地図情報の更新モデルの普及であり、そのための人材育成である。私は、阪神淡路大震災直後から地方自治体へのGIS導入には、位置の基準となる基準点が重要であり、当時、豊中市の柳川重信氏を中心に実施されていた基準点ベースのGIS導入モデルを豊中・高槻方式による位置参照点方式として高く評価した。この位置の基準をベースにした自治体GIS構築は、基盤地図情報の理念に活かされている。基盤地図情報の更新には、東京都北区の和田陽一氏1や大阪府門真市の元職員で現在は大阪府GIS官民連絡協議会GIS支援グループの一氏昭吉氏の基盤地図情報の更新手法をはじめ、大阪府「GIS大縮尺空間データ官民共有化推進協議会」2のワーキンググループの活動は注目される。自治体内業務からの知見が生かされた基盤地図情報の更新モデルとして非常に参考になる。すべての素晴しいアイデアは、現場にあり、研究者の理論と結合された時、現実味のある手法が開発される。GIS学会の学術雑誌名の通りにGISでは、この「理論と応用」が不可欠である。これらの実践的理論また理論的実践は、国・地方自治体職員とGIS技術者、研究者の知と実践の連携の中で醸成される。

私は、この4月からNPO法人全国GIS技術研究会の理事長に就任することになった。この背景には、全国の多くの地方自治体で日々 GISを実践されている地方自治体のGISキーパーソンを発掘すること、また、この環境を支える地方のGIS技術集団の人材育成、GIS上級技術者を全国に増加させるためである。そして、東京や大阪という大都市だけでなく、地方にGIS産業を発展させるという永年の私の夢を実現させるためでもある。

  1. 和田陽一 (2012) 「道路竣工成果の製品仕様書(案)竣工成果管理に関する取り組みについて」, 土木情報学シンポジュウム講演集 37,pp.13-14.
  2. 大阪府官民大縮尺空間データ官民共有化推進協議会 http://www.osaka-kanmin.com/top/gsg/default.php

「GIS NEXT 2013Spring(第43号)投稿記事より」